#02 育児とは、世の中全体で子どもを育てるということではないでしょうか。
連載:本人だけでなくその家族も支えることが小児在宅医療だと思っています
2017.09.14
2002年5月、宇都宮市でひばりクリニックを開業。
ようやく無事に帰国できてから、2週間じっくり考えて開業の決意を固めました。
シスタービンセントの「目の前にある必要なことをやりなさい。」という言葉と、9.11テロの遭遇の経験が、私にひばりクリニックの開業を決意させたのです。
開業地は、それまでに培っていた在宅医療の多職種ネットワークを活かそうと思い、栃木県宇都宮市に決めました。
当時の職場や家族、故郷に帰ってきて喜んでいる両親にも何とか理解してもらい、2002年5月に最初のひばりクリニックを開業しました。
開業といっても、資金も資源も何もないところからのスタートでした。
地元の人間ではなかったので、地元の金融機関からは融資を断られてしまい、開業資金は父から借りました。今では、銀行のほうから積極的に融資してくれます(笑)。
また、開業に際してはいろいろな方からのご好意を頂きました。病院や開業医の複数の先生から、使っていないソファーやベッドなどを頂き、自ら軽トラックで取りに伺ったりと、多くの方からの善意を頂きました。
全くゼロからのスタートでした。
ひばりクリニックの開業は、全くゼロからのスタートでした。開業当初は外来患者さんが1人とか、全く来ないという日もあったりして随分苦労をしましたが、それでも在宅医療だけは順調に進みました。
クリニックの診療科目は内科と小児科で、ごく普通の診療所です。
診療日は、月、火、木、土の週4日の午前中が外来診療で午後は訪問診療、金曜日は終日訪問診療となっています。
最初の頃は金曜日も外来診療を行っていたのですが、在宅が忙しくなってきたのでやめました。とんでもないことですね(笑)。
その外来診療でも、患者さんお一人お一人にしっかりと時間を取りたいので、むやみに患者さんを増やすことはできません。1日に診ることができる外来患者さんの数にはどうしても限界があります。
クリニック経営の視点で見たら、効率は良いとは言えないでしょう。しかもリスクは高い。
私が小児在宅で診ている重度の医療的ケアが必要な子どもたちは、常に命と隣り合わせにいます。お預かりしている時に急変するかもしれないというリスクを常に抱えています。
そんな緊張を強いられる環境であってもスタッフが伸び伸びと働けるように、全ての責任は私が一身に受ける覚悟を決めて日々の診療に取り組んでいます。
小児科医になった理由は子どもが好きだったから。
私が小児科医を目指したのは、子どもが好きだったという単純な理由です。
大学時代から子どもに接する活動が大好きで、ボランティアで子どもの家などの施設で遊びのお兄さんとか、障がい児キャンプのスタッフをしていました。
近年少子化が叫ばれていますが、小児科医のニーズは増えています。その理由として、3世代同居の家庭が減り、子どもが病気になった時にお母さんだけでは判断できないことが多かったり、子どもの病気が重症化していることが上げられます。
今の時代、新生児の10人に1人が低出生体重児であるとか、障がいを持って生まれてくる子どもの比率が増えています。
背景には高齢出産や、医療の進歩で助かる命が増えたことなどが考えられます。
かつて私が病院の新生児集中治療室にいたころには、厳しい現実に直面することも数多くありました。
勤務医の時には、ここに入院している子どもさんが地域に帰った時にどんな暮らしをしているのか、気にはなっても訪問はできませんでした。
地元の保健師さんに手紙を書いたり、電話で様子を聞いたりしても、できることには限界があります。
しかし、ひばりクリニックを開業して小児在宅医療を行うようになってからは、患者である子どもさんの暮らしに少しは寄り添うことができるようになりました。
医師としての自分の人生が続く限りは、その子どもさんに最後まで寄り添い続けたいと思っています。時には子どもさんが亡くなった後でも親御さんとのお付き合いは続くことがあったりもします。
小児科医の仕事とは
小児科医の仕事では、子どもの病気を治すだけでなく、子どもが病気になる背景にも目を配り、体の健康だけでなく、心の健康にも目を向けることが必要だと思っています。
病気や障がい以外に、家庭や社会的背景など、いろいろな課題が存在しています。困っていることを、まずは知って、抱えている困難を一つ一つ解決できるように最善を尽くしてゆく。私は常にそうしたいと願っています。
社会の健康とか家庭の健康を考えると、子どもにとっては、まずご飯が大切です。安心して暮らせ、勉強できる環境も必要です。
日常生活の中で子どもが、今日も楽しかったとか、ご飯がおいしいとか、そんなことも普通に喜べない環境があるとしたら、社会で何とかしていかなければならない。
育児とは、広い意味で考えると世の中全体で子どもを育てるということでしょう。その一端を小児科医が担っても良いだろうと考えています。
最近では、若い小児科医の中にも子どもの虐待に関心の高い人が増えてきています。