#03 病院医療と在宅医療のどちらが良いか、という一元的な議論も古いといえます。

在宅医療に携わる医師に求められるものとは

在宅医療に関わる医師にとって必要な資質とは、患者さんの生活に根差した視点で、総合的に診て判断を下せる能力だと思います。患者さんの生活環境や背景は全て違います。

当然、必要なアプローチもそれぞれ違ってきます。介護保険制度における主治医意見書についても、患者さんの生活に配慮した視点を持つことは必要不可欠です。

自宅で在宅医療を受けるのであれば、ある程度の危険を覚悟してもらうことも必要です。

施設に比べれば自宅は不安定ですし、完璧な管理もできません。医師自らが理解し、本人や家族にも分かってもらうことが必要です。

それでも、自宅で在宅医療を受けたいという患者さんは依然として多い。

患者さん自身が住み慣れた我が家で、ありのままの暮らしの延長線上で最後まで生きたいと望むのであれば、最大限のサポートをすることではないでしょうか。

患者さんにとっては、自分が生きていたいと思う場所で生き続けることが最大の希望であり、一番の基本でもあると思います。そのためには限りある資源で、どんな工夫をすれば「その人が望む生活」を実現できるのかを考える。

さらには、予測される病態に対しては先手を打って、きちんと治療、生活スタイルを組み立てる。これが、在宅医の役割だと思います。

医学部教育の中でも、在宅医療が教科として完成していない現実

今は医学部教育の中でも、在宅医療が教科としては出来上がっていません。

私も少し関与しているのですが、現在、国立長寿医療研究センターや東京大学医学部附属病院などで、学術的な検討に加え多くの症例を集めて、学問としての形成が進められています。

そこで作り上げたものが、その後の医学部の教育システムに反映されることになると思いますが、早くそうならないと未だに全国各地で医師がバラバラな在宅医療を行っているという現状は決して良い状況とは言えません。

病院医療と在宅医療の違いとは

まず、医療の中身においては変わらないことも多いと思います。但し在宅医療には、介護や看護など患者さんを取り巻く多職種の多様な関わり方が、それぞれの形でそれぞれの地域にあります。

病院で何ができるか、在宅で何ができるかというというよりは、必要に応じて、同じ目線で患者さんも医師も使い分ける。ということだと思うのです。

例えば、継続的に点滴が必要であっても、病院ではなく自宅で受けたいという人もいるでしょう。その後に、本人が在宅で疲れてしまいまた病院に戻りたいということもあるでしょう。そういうサイクルを必要に応じて使い分けることだと思うのです。

一方、病院の医師の中には、自分たちは急性期専門で在宅医療は関係ないという考えの方もいます。でもそれでは困ります。患者さんが必要としていることには、病院の医師であろうと在宅医であろうと同じ目線で捉えることが大切です。

もっとも重要なこととは、その患者さんの生活の質と生きる満足度、その患者さんが主体として生きることを支えることです。これに単に医療が付くということだと思っています。

病院は病気を治すところという言い方がありますが、そうだとすると病院から在宅には帰れなくなります。何故かというと、例えば高齢者が1カ月以上入院すると帰る気力を失い、家族も面倒を見られないという発想になってしまうのです。

現在、東京都モデルでは高齢者の入院の場合、急性期医療でも3日目から病院内で生活モデルに変化してもらっています。そのくらい早期から取り組まないと家に戻れなくなってしまうのです。

病院内で入院患者さんを生活モデルに変えていくということは、そこには病院医療と在宅医療の境は無く、同じ目線で患者さんを診るということになるのです。

在宅に戻ると患者さんに良い影響が出ることは確かに明らかですが、だからといって在宅が全て良いということでもありません。在宅で寝たきりになることも多いのです。

ですから病院医療と在宅医療のどちらが良いかという一元的な議論も古いといえます。

この記事の著者/編集者

坂本諒 法人 役職

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開院以来25年以上、 高齢者と認知症の在宅診療で地域住民のための医療に取り組む。

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