#02 宮永和夫氏「若年認知症は早期発見と早期治療が肝心です。」

20年以上も前から若年認知症に取り組んできた宮永和夫氏は、若年認知症の人には医療と共に生活の支援が求められていると訴える。 18歳から64歳までに発症する若年認知症の発病年齢は平均で約51歳といわれる。老年期認知症と違い、失職などによる経済的な困難や治療・介護期間の長期化による介護者の疲弊、社会の差別や誤解など、若年認知症特有の困難が伴う。 若年認知症医療の先駆的第一人者である宮永和夫氏に、若年認知症の医療と課題について問題提起をしていただいた。 (『ドクタージャーナル Vol.16』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

― 若年性認知症の8割が失職 厚労省研究班 ―
厚生労働省研究班の生活実態調査で、65歳未満で発症した若年性認知症の人で就労経験がある約1400人のうち約8割が勤務先を自ら退職したり、解雇されたりしたと回答したことが分かりました。

これは認知症介護研究・研修大府センターが平成26年夏から年末にかけて実施した調査結果で、秋田、岐阜、大阪など15府県の医療機関などの、18~64歳の若年認知症患者2129人についての回答です。就労経験があると確認できた1411人のうち、定年前に自ら退職した人は996人、解雇された人が119人で、合わせて79%に上った。定年退職したのは135人でした。

労働時間の短縮や配置転換など、仕事を続けるための配慮が十分とはいえず、若年性認知症の対応については企業側の意識改革も求められています。

初期の段階では記憶障害や見当識障害などが見られますが、身体合併症が少なく元気で体力もあるので老年期認知症に比べると介護が大変だという問題もあります。しかも発症後からの介護の期間はおのずと長期化します。

初期の診断で精神疾患と誤診されることが多いのも特徴の一つです。若年認知症に対する医師の知識や経験不足から、年齢的に認知症と考えづらく、うつ病と誤診されることが多いのです。意欲低下や性格変化がうつ病と似ているからです。

早期発見と早期治療が肝心です。

何といっても早期発見と早期治療が肝心です。

若年認知症は高齢者の認知症よりも進行が早いと言われています。また早期発見し治療を行う事で、症状の進行を遅くするなどが期待出来ますので、早期に受診する必要があります。

そのために若年認知症に対する社会の認識や知識の普及が最も大切です。それが早期発見につながります。

職場におけるメンタルヘルスの中にも、若年認知症の知識を普及することで個人の病識が高まり、周囲も早く気付くようになるでしょう。

職場の産業医の役割も大きい。地域のかかりつけ医も同様です。

もっともこれは認知症全般について言えることですが、十分な理解や知識を有している医師がまだまだ少ないと感じています。マスコミ報道や地域での講演会などを通じて世間の人にも広く認知させていくことも大切だと思います。

最近は認知症をテーマとした映画も作られています。2008年に上映された渡辺謙主演の若年認知症をテーマにした「明日の記憶」は大きな反響を呼びました。

そして若年認知症と気づいたら、本人や家族にとっては認め難い現実かもしれませんが速やかな専門医の受診が大切です。ただ本人が自分でおかしいと気付く事は難しいため、家族や会社の同僚、仲の良い友達などがおかしいと気付き、受診を勧めるケースが多いのも特徴です。

若年認知症を取り巻く世の中の現状

厚生労働省が2015年に発表した認知症施策推進総合戦略「新オレンジプラン」における若年認知症対応のメニューは決して十分とは言えませんが、その中で若年性認知症施策の強化として、都道府県ごとに若年性認知症の人やその家族からの相談の窓口を設置し、そこに若年性認知症の人の自立支援に関わる関係者のネットワークの調整役を担う者を配置することで、若年性認知症の人の視点に立った対策を進めることが盛り込まれたことは評価できると思っています。

認知症は介護保険で対応できますが、私としては、若年認知症の人は障害者と考えたほうがよく、障害者総合支援法を中心とした対応がより現実に即していると考えます。しかし残念ながら医療行政の関係者にその自覚が不足しています。

特に前頭側頭型認知症、いわゆるピック病に対しては、医療も介護も十分な対応ができていません。

前頭側頭型認知症(ピック病)になると、性格や行動に異変が生じます。怒りっぽくなる、約束を破る、不潔になる、相手を無視する、暴力に訴えるなどの性格や行動の変化が大きいのが特徴です。時には万引きや無銭飲食などの非常識な振る舞いもします。本人の病識はありません。実際は病気が原因にもかかわらず、そのために逮捕されたり職場を解雇されたりということも起きています。

― 日本認知症ワーキンググループ共同代表の中村成信さんの著書「ぼくが前を向いて歩く理由 ―事件、ピック病を超えて、いまを生きる」でも、まさにその体験がつづられていますね ―

行政の若年認知症年に対する無理解や無知もあります。

ピック病での逮捕の例もそうですが、若年認知症で最も必要な社会福祉制度の利用でもいろいろと制限が掛かっていて使いづらいのが現状です。

役所の窓口で、ある患者さんがアルツハイマー病と書いて申請したら認知症と書いてないから認められない。と言われたと聞いて驚きました。そのままであれば泣き寝入りです。そのように患者さんが不利益を被っている例はたくさんあるのではないでしょうか。

この記事の著者/編集者

宮永和夫 南魚沼市病院事業管理者

神経内科、精神科医。南魚沼市病院事業管理者。精神保健指定医、精神保健判定医、日本老年精神医学会専門医。1951年茨城県生まれ。群馬大学医学部卒業。国立群馬大学医学部精神科在籍時より認知症や高次脳機能障害などの器質精神障害の臨床に関わる。現在 NPO法人若年認知症サポートセンター理事長、全国若年認知症家族会・支援者連絡協議会会長。早くから全国の若年認知症家族会の設立に携わる。地域及び全国での講演会・研修会の活動や認知症に関する著書多数あり。

この連載について

若年認知症の最大の課題とは

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