#03 星が嫌いという人はほとんどいない。
連載:病院がプラネタリウム 難病や長期入院中の子供達、被災地の子供達に「星空」を届ける
2017.11.07
病院がプラネタリウムというプロジェクト
高橋氏が、本格的に「病院がプラネタリウム」というプロジェクト名を作り、それがライフワークの一つになったのは、2013年に科学館の正規職員を辞して独立してからでした。
『絶妙なタイミングで、製薬会社からの助成金を提案され、プロジェクトを始めることができた。
主に対象としてきたのは、長期入院している子どもたち、重度心身障害者と呼ばれる難病の人たち。ドームで行うプラネタリウム投影の一番の醍醐味は、街の明かりを消して満天の星空が現れる時間。
みんなで目をつぶって、カウントダウンをする。「10、9、8…ゼロ!」「さあ目をあけよう」と言う瞬間の子どもたちやスタッフの大きな歓声、そのたびにこちらが泣きそうになる。』(高橋氏)
『何故あの、小さな点像がたくさんあるだけの、ニセモノの星空に、人々は感動するのだろう。星が嫌いという人はほとんどいない…そう思うたびに、星を携えた仕事ができることに無上の喜びを感じる。』(高橋氏)
病院でプラネタリウムを行うと、「私が星にお願いしたいことは、どうか病気がなおりますように、ということです」「広い宇宙の中にいることがわかって、生きているのは奇跡だと思った」という子どもたちからの感想や、「夜の時間が楽しみになりました」という保護者の方からの感想、「癒されました!」というスタッフからの声が寄せられるそうです。
「めっちゃ元気でた!」
『子どもたちも家族もスタッフも、ボランティアも、すごくいろんな立場の人たちが、同じように体験できるのが素晴らしいですね。と言っていただいたことがある。
病院という社会の中にあって、医師と患者の関係性は、「治す人」と「治してもらう人」。一種の上下関係のようなものがある。
けれども、プラネタリウムの中で、お医者さんが口をあけながら、一緒に「おー」とか「わー」とかつぶやく。そのことが、患者側に与える安堵感はどれだけのものだろう。』(高橋氏)
『ある病院では、こんなこともあった。プラネタリウムをとても楽しみにしていたのに朝から調子が悪く、見に来られないかも、という女子中学生のKさんがいた。
子どもたちの楽しみを日々つくりだしているチャイルドライフスペシャリスト(CLS)のMさんが、Kさんの大好きな曲をリクエストしてくれた。「You raise me up 」、あなたがいると私はがんばれる、という意味の有名な楽曲だ。
Kさんはなんとかプラネタリウムにやってきた。その日、病院から見える星空、ライトダウンした満天の星、そこにちりばめられる星座たちを巡ったあとは宇宙旅行。地上を飛び出して、地球を眺め、惑星を訪ねてゆく。
私たちのいる地球が、どれだけ広い宇宙の中にいるのか視野を広げる。太陽系、銀河系、銀河団……
Kさんは、手持ちのスマホで、一生懸命動画撮影をしている。途中で、「あ!」という彼女の嘆きの声が聞こえる。せっかくとった動画を削除してしまったようだ。
残念がる彼女のために、投影が終わったあと、Kさんとお母さん、CLS のMさん、そして私だけがドームに残って、再度、大好きな音楽をかけながら、宇宙を漂い、青く愛おしい地球に帰っていった。
大人3人はすっかり涙であったが、ご本人は、「めっちゃ元気でた!」と、ほんとうに幸せそうな顔になって病室へ戻っていった。
朝の具合が悪かった様子を知っていた看護師さんが唖然としたほどに。』(高橋氏)